基本レイアウトとは実際の物件に即し、区画の形や柱、入口の位置、排水設備箇所などそれぞれの条件を加味し、部屋を配置していくことです。クリニックの基本レイアウトは、部屋を配置するうえで患者様とスタッフの動線の取り方が非常に重要になっています。
またクリニックの開院にあたり、「構造設備等の基準」をクリアしなければなりません。まずは平面プランができましたら、図面をもって必ず保健所の事前相談に行きます。そして図面上問題がないことを確認し、工事に着工する流れとなります。
基本レイアウトの一般的要項
動線の区別
クリニックには受付、会計、待合、診察室、トイレ、処置室、X線室、CT室、レントゲン室、手術室、リハビリ室…医院・クリニック内には様々な部屋が必要となります。これらの部屋をドクターの動線、看護師の動線、患者様の動線を明確にして、なるべく交差することなく配置し、動線がクロスしないようにプランニングします。玄関→受付→待合→診察→待合→会計→玄関といった流れがスムーズだと、患者様が分かりやすくて良いでしょう。
患者様のプライバシー
診療、処置中に他の患者に会話が聴こえていないか、待合室から診察室のなかが見えていないかなど、患者様はクリニック側が思っている以上に気にしています。完全に遮断することが難しい場合は、待合室に音楽を流したり、待合室の椅子の配置に工夫したりすることで対策しましょう。
また、X線装置の操作盤や電子カルテの画面などの個人情報が患者様に見えることのないようにすることも重要です。
衛生面への配慮
コロナ禍の中、「病院に行くと感染してしまうかも知れない」とクリニックに行くことに不安やストレスを感じる患者様もいらっしゃいます。マスク着用や消毒液配置は当然のことながら、レイアウトからも対策は可能です。
例えば、商業施設内クリニックでないのであれば、患者様用トイレを設置したり、医師やスタッフの手洗いが容易になるように、診察室の近くに患者様の動線と被ることなく手洗い場を配置するなどです。その他ウイルスにも対応できるよう、空気感染を防ぐ給排気設備の設置や感染患者と一般患者との隔離する内装レイアウトなど求められます。
安全対策
まず第一に高齢者や身体障がい者に配慮したバリアフリーの内装であることが重要です。入口に階段があるような場所である様ならば、スロープの設置や通路に手すりの設置などが考えられます。市区町村によっては、バリアフリー条例などでトイレの寸法や内部設備(手すりなど)に取り決めがある場合がありますのでご確認ください。
その他に注射器など血液が付着する医療性廃棄物は保管場所を明記すること、麻薬使用の場合は鍵付きの麻薬金庫を設置・固定し、図面にも場所を明記することも必要となります。
診療所の構造設備(医療法施行規則)
診療所の基本構設備は医療法施工規則によって定められています。
🔗 医療法(昭和23年法律第205号)抄(病院の構造設備基準に関する関係法令
更に物件の大きさや内装上の条件、また戸建て物件かテナント物件なのかによって変わってきますが、基本的には次の通りです。
受付
受付・会計は病院の顔であり、ここで最初の印象が決まってしまいます。
・患者さんが来院したことが分かるよう、出入り口の近く、正面などにレイアウト
・受付スタッフは2~3人程度必要になることが多いことと、受付カウンターには電子カルテやレセコン、プリンター、スキャナー、レジ、電話、ファクスを置くことが想定されるため、間口が2m程度またはそれ以上あると良い
・カウンター内の事務作業やパソコン画面、内部の書類が、患者さんから見えないようにする(カウンターの高さを出す、書類棚を患者さんから見えない位置に設置する等)
・患者さんの荷物(杖やバッグ)などの置き場の設置
待合室
・診察室と待合室の区画は、患者のプライバシー保護等に配慮し、扉が望ましい
・患者さん同士目が合ってしまうことのないレイアウトにする(向かい合わせの椅子を設置しない、トイレから出てきた患者さんとも目が合うことのないよう椅子の向きを考慮する等)
・院内情報等の提供のための掲示板やテレビモニターを設置
・小児科、産婦人科等、乳幼児が多く来院する場合は、授乳室の設置についても検討
・整形外科など、場合によっては車椅子でも十分通過できるスペースの確保
・新型コロナウイルス対策として、空気清浄機の設置や椅子と椅子の十分な間隔の確保
診察室
・保健所の基準には標準面積9.9平方メートルという指針もあるが、必須ではないためそれよりも小さくてもよい
・診察ベッド、診察デスクを置き診察を行う場合には2.5m×2.5m程度は必要
・1室で多くの診療科を担当することは好ましくない
・医師の前側から患者さんが入って来るように、入り口は引き戸または内開き戸にする
・防音扉の設置するなどして、他の患者さんに診療内容が聞こえないよう、プライバシーに配慮する
・診療室の奥に、処置室や職員が行き来できる裏導線用通路を設ける
処置室
処置室は、採血、注射、血圧測定、点滴、心電図、脈波測定等、行う予定の処置や検査内容により必要な大きさと設備を検討しましょう。
・診察室と処置室を兼用する場合には、処置室として使用する部分をカーテン等 で区画することが望ましい
・ベッド周りにはカーテンを設置
・薬の保管(冷蔵庫や麻薬金庫)を設け、医療用廃棄物置き場も考慮
・点滴を行う患者さんが多い場合は、点滴室を別途設ける
臨床検査室
・他の室と明確に区画する
・血液、尿、喀疾、糞便等について、通常行われる臨床検査に必要な設備を設ける
X線室・CT室
X線を使用する診療室(X線室、CT室等)については、「放射線障害の防止」のため法律でいろいろな放射線防護の規制がなされています。
・X線室内には操作場所は設けない(X線室の外で操作する)
・天井・壁・床・扉・窓などで区画し、換気扇・空調・電線などの穴にも放射線漏洩を防ぐ処置がなされていること。
・X線室である旨の表示と管理区域である標識の設置し、管理区域内に人がみだりに立ち入らないような措置を講じる
・ 車椅子での移動(導線)も考慮してレイアウトを決定する
・ 装置の重量に耐えうる構造にする(一般的に装置は1t以上あるため)
その他
・クリニックは、他の施設と機能的かつ物理的に区画されていること
・ビル等の専用階段、エレベータが存在する場所に開設される場合、医療施設の専用経路の確保
・原則各室が独立し、各室の用途が明示されていること。
・廃棄物の処理にあたっては、廃棄物処理法の規定を遵守すること
・建築基準法、消防法等各法令に適合していること。
※防火設備、空調設備については建築士が対応をすると思いますが、必ず所在地の消防署、保健所に確認をすると依頼しましょう
面積の目安
保健所の指導基準としては最低の面積基準を設けておりますが、患者にとって圧迫感のないゆとりの有るスペースを提供するためには次の面積を目安とすればよいでしょう。
医療機関の必要施設
施設名・専科 | クリニック_内科 | 中規模医療機関_内科・胃腸・循環器 |
待合室 | 6㎡ | 13㎡ |
中待合 | 10㎡ | 20㎡ |
診察室 | ー | 10㎡ |
処置室 採血・採尿 | 10㎡ | 10㎡×3 |
外来指導室 | ー | 16㎡ |
簡易ベッド室 | 13㎡ | |
ミーティングルーム | 13㎡ | |
休憩室 | 13㎡ |
診療科目別目安面積
この面積はあくまで目安となり、この面積より少ない面積で開業している先生もいらっしゃいます。
診療科目 | 面積 | 備考 |
一般内科 | 30~40坪 | |
消化器内科 | 40~50坪 | 下部を行う場合は+10坪程度 |
循環器内科 | 30~40坪 | |
小児科 | 30~40坪 | X線室の有無、隔離室の考え方により+α坪 |
整形外科 | 50~60坪 | リハ室とX線室、MRI室の面積により+α坪 |
眼科 | 35~45坪 | OPEを行う場合、+α坪 |
耳鼻咽喉科 | 30~40坪 | |
脳神経外科 | 50~60坪 | MRI室設置の場合は+10坪程度 |
婦人科 | 40~50坪 | アウスを行う場合、+5~10坪 |
乳腺外科 | 40~50坪 | |
泌尿器科 | 40~50坪 | |
心療内科 | 20~30坪 |
さいごに
クリニックの内装において重要なことは、クリニックのコンセプトをしっかり持ち、それに基づいて患者様目線やスタッフ目線で平面プラン、デザインプランを決めていくことです。
忙しくても業者に任せきりにせず、重要なポイントはご自分でしっかり押さえながら理想とするクリニックに近づけるように確認をとっていきましょう。