クリニック内装の設計時に押さえておきたい法規制

内装

クリニックを開業するという事は、そのクリニックで院長であり、経営者であると共に、クリニックの建物の責任者も兼任することになります。日本は自由開業制であるため、地域を管轄する保健所へ開業届を出せば開業できます。

しかしそのクリニックとなる建物は、建築基準法では特殊建築物に該当し、建築にあたり、医療法以外にも建築基準法、消防法、バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)、都市計画法、地方公共団体が定めた条例など、クリニック設計にかかわる法律が厳しい基準が設けられているので、一つ一つ基準をクリアしなければなりません。

病床の有無や規模により規定が異なりますので、確実に基準を把握することは難しいので、建築基準法、医療法、消防法、バリアフリー法の4つの法律にもとづく知っておくべき規制についてご紹介します。

※ 自由開業制
自由開業医制とは、施設基準を満たせば医師はどこでも自由に病院を開業・経営し、自由に科を標榜することができる制度のことです。
ただし、医療計画では都道府県ごとに医療圏が設定されており、基準病床数が策定されているため、特定の地域に必要な病床数は決められています。特定の医療圏に存在する病院と診療所の病床数の合計が基準病床数を超える場合は、原則、新病院の開設や増床はできません。しかし、病床を持たないクリニックは自由に開業できます。

建築基準法

建築基準法とは

建築基準法とは、建物を建築する際や利用する際に守らなければならない最低限のルールを定めた法律です。建築基準法は1950年に制定され、それ以降も、社会情勢を反映して改正を繰り返しています。私たちが暮らすためには、家や会社、学校など、さまざまな建築物が欠かせません。建築基準法は、それら建築物についてルールを定め、安全で安心な生活を送れることを目的としています。

クリニックにおける建築基準

クリニックの設計・施工に関わる法律で、開業計画にもっとも大きく影響するのは、有床診療所か無床診療所か(=入院施設の有無)という点でし。

建築基準法上、20床以上が【病院】と規定され、それ以下は【診療所】扱いです。
また、病床がゼロであれば、【診療所】ではありますが、特殊建築物ではなく、一般建築物にみなされます。

区分病院診療所診療所
病床数(入院用)20以上1~19
建物の種類特殊建築物特殊建築物一般建築物

なお、【診療所】であれば、どの地域でも建設することができます。

医療法

医療法とは

医療法とは、医療提供体制について定めた法律です。
医療施設のあり方の基本についての法律で、病院・診療所・助産所など医療機関の開設・管理・運営・規模・人員等、さまざまな規定が定められています。

医療法におけるクリニックの構造基準

医療法では、クリニックの構造基準が細かく定められています。

待合室・診察室と待合室の区画は、患者のプライバシー保護等に配慮し、扉が望ましい
・待合室の面積の標準は3.3m2以上
診察室・診察室の広さは9.9㎡以上
・診察室と処置室を兼ねる場合、カーテンなどで区画できるようにすること
・医師1人に対し一室あることが望ましい
・一部屋で一つの診療科目であることが望ましい
エックス線診療室・エックス線診療室の室内には、エックス線装置を操作する場所を設けないこと
・エックス線診療室である旨を示す標識を付すること
・管理区域である旨を示す標識を付け、管理区域内に人がみだりに立ち入らないような措置を講じること
・エックス線装置を使用しているときは、エックス線診療室の出入口にその旨を表示すること
・移動式のポータブル装置であっても、診察室などで大半を使用する場合、エックス線診療室が必要である
調剤場所・待合室との調剤所の間には天井までの仕切りがあること
・採光および換気を十分にし、かつ清潔を保つ
・冷暗所(又は電気冷蔵庫)を設ける
・感量10ミリグラムの天びん及び500ミリグラムの上皿天びんその他調剤に必要な器具を備える
処置室・診察室と処置室を兼用する場合には、処置室として使用する部分をカーテン等 で区画することが望ましい。
・給水設備があることが望ましい。

その他にも
・診療所がビル内にある場合は、ビルの階段や廊下等と明確に区画すること
・各室が独立し、各室の用途が明示されていること
・障害者差別解消法の規定に基づき、構造設備についての配慮や工夫をすること
・廃棄物の処理にあたっては、廃棄物処理法の規定を遵守すること。

などが挙げられ、さらに、医療機器を院内に導入するにしても規定があるので、注意が必要です。

このように診療所であるクリニックを作る場合でも、建築基準法や各種条例での規制があり、煩雑な手続きが必要となります。

消防法

消防法とは

消防法とは、人の命や財産を守ることを目的とし、「火災を予防しよう」「もし発生してしまっても被害を最小限にとどめよう」という趣旨の法律です。消防法によって、多くの建物に消防設備の設置・点検が義務付けられているのは、火災による被害を最小限にとどめ、人の命や財産を守るためです。

消防法におけるクリニックの構造基準

建築基準法(医療法)において、病院とクリニックの違いは入院の病床数20を基準とした数とお伝えしましたが、消防法では病床数4で扱いが変わりますので、注意しましょう。

有床診療所の
設置基準
・消化器:延面積に関わらず必要
・スプリンクラー:延面積3,000㎡以上 ※診療科目によって異なる
・自動火災報知設備:延面積に関わらず必要
・消防機関へ通報する火災報知設備:延面積に関わらず必要
無床診療所の
設置基準
・消化器:150㎡以上
・スプリンクラー:6,000㎡以上
・自動火災報知設備:延面積300㎡以上
・消防機関へ通報する火災報知装置:延面積300㎡以上

参考:消防用設備等設置に関わる消防法令の改正

その他、床面積に応じた消化器具の設置や自動火災報知器設備などの規定があり、更に何階建てか、医師や看護師などの院内で就業人数にも応じた避難器具の設置規定があります。

バリアフリー法

バリアフリー法とは

正式名称は、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」と言い、従来のハートビル法と交通バリアフリー法を一体化させたものです。2006年に施行され、東京オリンピック・パラリンピックに向け、2018年に一部改定されました。

この法律では、高齢者や障害者が建物や交通機関における移動や利用を円滑にするため、駅や空港、飲食店など様々な旅客施設、建築物で、ハードとソフトのバリアフリー化が義務づけられています。

さらに2018年の改正では心のバリアフリーが国民の責務となりました。

バリアフリー法におけるクリニックの構造基準

今後建物を新築・改修する場合、バリアフリー法に基づいた設計を取り入れなければなりません。
クリニックのバリアフリー化について注意すべきなのは以下のような点です。

段差解消
・クリニックの出入り口、または、通路から診察室、処置室などに入る際に段差をなくす。
→階段などがある場合にはスロープを設置
・カウンターが高く車いすの患者さんが届かない場合は、別途低いカウンターを設ける。
通路の幅・車いすの患者さんと歩行者がすれ違えるように十分な幅の確保
・手すりの設置
→スロ-プ、待合のいす近く、また待合から診察室までの通路などでも、高齢者がかがむことが想定される場所には手すりを設ける。
駐車場駐車するスペースが複数ある場合には車いすユーザー用のものを確保
エレベーター車いすを利用する患者さんのために、エレベーター内のドアに対面する壁面に鏡を設置

さいごに

クリニックを開業する場合、建築基準法に則り、建築物を建てる必要があります。その他にも、保健所や福祉事務所、労働基準監督署にも書類を提出するなど、多くの手続きが必要です。

こういった開設許可に向けた申請などの諸々も手続きに時間がかかるが故に、クリニックは開業しようと思い立ってから、約半年ほどの準備期間を要します。申請をすれば、すぐに受理されるというものではなく、事前に相談をして根回しすることも必要だと言われます。

建設会社や設計士に相談しながら、安全に守られたクリニックを開設したいものです。